2007年11月6日

こだわりの玄翁カスタマイズ其の五 使用感を極める

 


 ムベ柄玄翁…これは、私にとって究極の玄翁です。


 手にとって、卯木柄の玄翁ほどぴたっと吸い付いてはこない。

 木肌はむしろ赤樫に近いし、堅木の木肌が持つ光沢感もありません。

 頭の重さ、形、柄の意匠、ほぼ初代と同じです。

 若干、柄の胴部分の断面が、楕円扁平率で15%ほど丸くなっています。


 しかし、この玄翁が出来てからは、これ一辺倒になりました。

 ごく無造作に使っていますので、ごらんの通りの状態です。


 この素っ気ない玄翁なのに、なぜか?

 使えば分かる、としか言いようがない!


 言葉を失う、道具です。



 じつは、この玄翁の柄は裏山で伐採してきたムベの蔓(ツル)で作ったものです。

 ムベとは、アケビによく似た紫色の実をつける蔓性の木で、

 アケビの実が熟すると割れるのに、ムベの実は割れません。


 葉も肉厚で光沢があり、常緑樹(アケビは葉が落ちます)なので垣根に使われたり、盆栽でも人気があります。


 このムベの根元の太い部分でほどよいカーブを持つところを切り出して

 乾燥させておいたものを、加工しました。


 蔓性(つるせい)ですので簡単にたわみますが

 十分乾燥させるとかなり痩せて木肌が締まり、しっかりとしてきます。


 この柄で、例の如くこだわりにこだわって玄翁をすえ、


 いざ使ってみると!


 たまらなく良い「しなり感」があり

 振り下ろした力が玄翁の打撃面にスカーンと集中されるのを

 …体で感じるのです。


 しかも、衝撃をキックバックしてこないで、吸収してくれる。


 玄翁を手に持って曲げてみると!

 はっきりとしなるのが分かります。


 すばらしい!---------のひと言しかありません。


 世界でただ一つの、

 究極の!しなる玄翁です。

 エルゴノミクスはもちろん、絶妙のしなりをもつ玄翁…

 使うたびに満足で、うれしい!


 木工職人の道具道楽も、玄翁一つでこれだけ楽しめるところが

 奥が深いですね。

 自分の使うものは、世界でただ一つの「自分だけのもの」が欲しい。

 一切の装飾性を省いた

 機能美の極致だと思います。

 匠の道具とは、かくあるべきかな…


 たかが金槌、されど金槌です。

握りのフイット感を極める

 「初代千代鶴写し改」玄翁のできばえに満足した私は、
 次にやや大ぶりの玄翁をアレンジすることにしました。

             これは、鑿(ノミ)を打つ金槌です。
             握りを見るために、裏側の写真です。


 この玄翁の頭は、両方の打撃面に焼き入れが施されています。

 このタイプの玄翁を求める程のこだわり職人は数少ないでしょうね。
  ( ̄ヘ ̄)えっへん

 柄は十分に乾燥させた卯木。
 この木は芯のところが中空になっているところから、空木(うつぎ)と名付けられ、
 転じて卯木となったそうです。

 初代は芯持ち材なのが玉にきずですが、
 竹材と樹脂を注入して
 強度と粘りはより強いものになっておりますが……こだわり!

 さほど大きくなる木ではありませんので、
 芯のところを避けた「芯無し材」は2本しか採れませんでした。

 この玄翁は、柄のグリップ感に徹底的にこだわりました。

 実際に使いながら、
 当たり感の強いところを握りに合わせて少しずつ削っていきました。
 年季の入った職人の使い込んだ玄翁ですと、当たるところが凹んでいます。
 当然、手の方はそこだけ皮が厚くなったり、たこができていたり…。

 私は指の形が変形したり、白蝋病に似た職業病になるほど修練しておりませんので…
 創意工夫をすれば、技術の世界でも加速成功法があります。

 それで、握りの部分全体にゆるいディンプル加工を施しました。

 夏場だったので、
 汗ばむ手のひらにぴったり吸い付くのをあえて避ける工夫です。

 柄の長さは、このクラスの玄翁としては短い方ですね。
 握りの位置が決まってしまっているので、余分な長さはいりません。

 自分専用なのですから。

 絶妙なバランスです!

 本当に超一流の道具というのは、「手にするだけで、気持ちが昂ぶる」といいます。

 たかが玄翁ですが、この玄翁を手にすると、厳しい職人魂が満ちてくるのを実感します。

 さらに、もっと極め続ける…

こだわりの玄翁カスタマイズ、其の三


 「微妙に違和感」

 …それは、玄翁の柄がこころなしか外側に湾曲して見える
 ということに気づいたからです。

 これは、ねじれ加工をしたこともあるでしょう。

 加えて、私の右目の視力が若干落ちて以来
 いつの間にか利き目が右から左目に代わっていたことも原因のようです。

 つまり「左利き目、右手つかい」ということも、
 玄翁の柄が微妙に湾曲した感覚を覚えるようでした。

 (乱視じゃないのかって? ヾ(´▽`;)ゝ)

 これは、丸台鉋(カンナ…建築では使いません。木工作家の道具)で、
 納得のいくまで削り修正しました。

 これで、視覚的フィッティングもばっちりです。

 しかし、私の探求心はこれだけに留まりません。

 写真でお分かりのように、

 柄尻は微妙なカーブの末広がりとなっており、
 軽く握って速射砲をやっても滑り落ちないようになっています。

 野球のバットでも、ゴルフのグリップでも、
 固く握ってはいけませんよね。

 このように末広がりになった金槌の柄は、見たことがないでしょう?

 次のこだわりは、玄翁の頭です。

 道具屋に試作品の柄を持参して
 重さが微妙に異なる数十種の頭を仮留めして、何回も振ってみました。

 たくさんある中からじっくりと選んだのです。

 この頭はそのままでは、使えません。

 柄を打ち込む込みクチの部分に、絶妙な傾斜とRをつけて
 柄の木肌を削らないようにヤスリで調整しておきます。

 柄の差し込み部分は、
 金床に乗せ玄翁の凸面で打って(木殺しといいます)、
 圧縮処理をしてから打ち込みます。

 ちなみに、玄翁頭のすげ口内部は中央が若干鼓型に絞ってあります。

 ロシア語の Ж (右図)…

 こんな感じで、上から柄が差し込まれます。
 こうすると木が反発膨張して、しっかりと食いつき抜けなくなります。

 接着剤のない時代、先人の知恵ですね。

 クラフトマンとしての私のテーマは「木と鉄」ですが、奥が深いですね。

 さらにさらに、柄をすげてからも、柄の長さの微調整、などなど……。

 私の好奇心と探求心は、きりがない!

 もっと続く!

こだわりの玄翁カスタマイズ、其の二

 この玄翁の柄の材質は一般的な赤樫(かしの木)ではなく、
 最上の素材とされる卯木(うつぎ)の木を使っています。

 樫は堅いだけで、手に余計な衝撃を伝えますが、

 卯木は弾力と粘りを兼ね備え、かつ手にしっくりと馴染む木肌をしています。

 卯の花の木、と言えば年配者の方にはお分かりでしょう。
 「♪卯の花の匂う垣根に~♪」…と歌われた木です。

 真っ白な小さな花をびっしりつける、灌木です。

 柄は使い込んで艶消し光沢を放っておりますが、滑ったりしません。
 手のひらに吸い付く感じです。

 市販の赤樫の柄には決してない質感ですね。

 握っただけで、嬉しくなり、気分が良くなります!

 そればかりではありません。
 柄の形状も人間工学の粋(すい)を実現しています。

 前の写真を見れば分かるように、玄翁の頭の重心を通る柄の中心線は、
 握りの尻のところでは、上3分の1のところを通っています。

 つまり柄は横から見るとアーチ型にベンドしています。
 これは、歴史的に改善されてきた握りの理想型とされます。

 この柄は削ってアーチを出したのではなく、
 理想的に曲がっている卯木の木を探して伐採してきたものです。

 日本の伝統家屋の梁(はり)が、アーチ型の材を用いるのと同じ理由で、
 曲がった木の部分は反発力があり強いからです。

 人間も、そんなところがありますね。

 そして、最も独創的なところは、

 この柄に右回りに7-10度くらいの「ねじれ」を持たせている点です。


 市販品のように真っ直ぐ0度のままですと、
 釘など打つ時に脇をぐっとしめなくてはいけません。

 これを長時間やるのは修練が必要です。

 「体のどこにも余分な力みを加えず
 自然体でやるのが最も強く、疲れず、
 技に全エネルギーを集中できる」

 …ということを私は「新体道」の稽古で学んでおりました。

 自然体で握ると、市販の玄翁の頭は微妙に外側に倒れる感覚を覚えます。

 いわゆる「ガニ股」ならぬ「ガニ腕」なのかと思いました。

 これを修正するために、握りに若干のねじれ加工を鉋(カンナ)で施したわけです。
 
                      これが上から見た写真
 この修正加工によって
 釘打ち込みのベクトルに寸分違わない軌道で玄翁を打てるようになりました。

 滑りやすく打ち損じがある丸頭釘でも、速射砲で仕事が進みます。

 何が違ったのか、分かりますか?

 そうです、金槌には右利き用、左利き用が厳然としてあるのですね。

 こんなこだわりを言う人は、私以外にはいないかもしれません。
 このフィッティングによって、腕の延長としてのピッタリ感は完璧だと思えました。

 しかし、なお、何か微妙に玄翁に違和感が残っていました。

 さらに続く。


 


 

こだわりの玄翁カスタマイズ、其の一

 私の趣味は家具作りなどの木工です。

 道具へのこだわりは、伝統工芸士並みだと自負しています。

 ひとつの例として、建具工事用の私の玄翁をご紹介しましょう。

 このような形の柄をもった玄翁を見るのは初めての方ばかりだと思います。

 いわゆる千代鶴写しというやつですが

 このエルゴノミクスの伝統が現在ではほとんど途絶えていることは残念です。


 千代鶴という人は、江戸時代の道具匠で

 今日のエルゴノミクス(人間工学)の祖とも言うべき人ですね。


 中世において

 世阿弥が庶民芸の猿楽を能という芸術として完成させ、

 千利休が栄西の「喫茶養生記」の茶事を茶の湯の芸術として完成させたごとく、

 千代鶴は大工道具を究極の理想形に完成させた巨匠

 …と言って良い。


 後世の道具匠たちは千代鶴の道具の意匠を踏襲するにとどまり

 しかしそれらの道具は「千代鶴写し」として、ある種のブランドとして人気を博したそうです。
 
  昔から「名工に赤貧多し」と言われますが

 千代鶴のブランド名は後に道具商に買い取られて、

 「写し」であるにもかかわらず、千代鶴の銘を刻印して売り出したといいます。

 で、
 ブランドを売ってしまった当の本人はどうしたかって?

 「見るものが見れば分かる」

 …といって、ポンチで一発 ・ を打って

 それを千代鶴自作の証としたそうです。


 それでも、千代鶴使いの名工たちは寡作な彼の道具に飛びついて、

 多くの職人が押しかけた伝えられます。


 これがホントの・(ドット)混む (#^.^#)

 でも、小林由典作の玄翁は、さらに徹底エルゴノミクスを追求しています。

 次回に続く…